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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1528号 判決 1966年12月07日

控訴人(原審原告)

岡部勇二

被控訴人(同被告)

指定代理人

荒井真二

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金一五〇円を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

理由

控訴人が東京地方裁判所昭和三五年(行)第八〇号退職手当金請求事件の準備手続期日においてその主張のように五回にわたり準備手続の延期または続行の申立をし、そのつど一回につき金三〇円、合計金一五〇円の印紙を貼用して手数料を納付したことは当事者間に争いがない。

控訴人は口頭弁論期日の指定は職権により定められ、準備手続の延期または続行の申立にもとづく場合も同様であるから延期続行にもとづき期日が指定されたとしても、それは民事訴訟用印紙法第六条の二第一号にいわゆる期日指定の申立に該当しないし、その他に印紙を貼用すべき規定がないから被控訴人は右手数料相当額を不当に利得していると主張する。

よつて判断するに、民事訴訟法第一五二条第一、二項は期日指定の権限は期日の種類に応じて裁判長または受命裁判官、受託裁判官に専属する旨を定め(後述のように準備手続期日の指定は準備手続をする裁判官が行う。)、同条第三項によれば期日の指定は当事者の申立または職権によつてなされるものと定められ、右諸規定は原判示のように旧民事訴訟法(大正一五年法律第六一号による改正前のもの)第一五九条及び第一六九条の規定が整序されたものであることは明らかである。

ところで、現行民事訴訟法は訴訟の進行について職権主義を採用し、期日の指定は原則として裁判長または前記のように期日を主宰する裁判官に委ねることとするためその限りでは当事者が介入する余地はなく、例外的に例えば同法第二三八条により訴取下の擬制を免れるため期日指定の申立をする場合、あるいは和解または訴の取下の無効を主張して期日指定の申立をする場合等に期日指定の申立権があると認めることができ、従つて前者すなわち通常の場合には期日指定の申立は原則として職権の発動を促すにとどまるものというべきであるが、後者すなわち例外の場合にはその申立が理由があれは必らず期日の指定をし、その理由がないときは申立却下の裁判をしなければならないという拘束をともなう。

そうして、民事訴訟用紙法に基づいてする印紙の貼用はその性質上手数料の納入を意味するものであるから、当事者が訴、申立または申出等により裁判所すなわち国に一定の行為を要求する場合に裁判所の応答義務に対する代償としてこれを納入するものというべき、従つて単に裁判所の職権の発動を促すにとどまるときにはそれによつて裁判所がさらに一定の行為をすることとなつたとしても、原則としてかような意味における手数料納入の義務は発生しないというべきである。

そこで、本件のように弁論の延期続行の申立(本件では準備手続の延期、続行の申立であるが、民事訴訟規則第一九条により口頭弁論期日に関する規定が準用される)に応して期日が定められる場合に右申立について民事訴訟用印紙法の定めるところに従い印紙の貼用をなすべきか否かは、当事者がかような申立権を有し、これに対応して裁判所の側に応答の義務があるかどうかにかかるわけであるが、ここに弁論の延期又は続行というのは前記旧民訴における呼称に由来するものであつて弁論の延期とは事件の呼上がなされ期日が開始されたが予定された訴訟行為をなすことなく、これを後の期日に譲るものであり、弁論の続行とは期日が開始され口頭弁論がなされたが、これを完結せず、後の期日に譲るものであつて、その申立はいずれも残された弁論のための新期日の指定を含むものであることは明らかかであつて、この意味においては既に定められた期日の開始前にこれを取り消して新たな期日の指定を求める期日変更の申立とは、その新期日の指定を求める点で差異がなく、いわば広義において期日変更のひとつの態様と見るべきものである。そうして、期日の変更については、一定の厳格な要件のもとではあるが当事者に申立権を付与し、その許否の裁判が明示または黙示になされるべきことは民事訴訟法第一五二条第四項、第五項の解釈上疑いを入れないところであり、従つて弁論の延期については右条項を準用してその申立の許否の裁判をし、弁論の続行の申立については当該期日において証拠調の決定がなされ、次回期日にその施行が予定される等のときのほかは弁論の程度に応じて裁量によりその申立の許否が決せられなければならないのであり、その限度で裁判所はこれら申立に応答すべき義務があるものと解すべきである。かく解することは当事者に存する事由にもとづいて期日の変更、弁論の延期、続行を許容すべきものとすること(法定の要件を充足する限りであるが)が、当事者の利益に合致することとも符合するものといわなければならない。

従つて、口頭弁論期日の変更、弁論の延期、弁論の続行の申立についてはその内包する期日指定の申立に対して民事訴訟法用印紙法第六条の二第一号により印紙を貼用すべきであり、準備手続期日の変更、準備手続の延期、続行の申立についてもこれと同様に解すべきであるから、控訴人が前記事件の準備手続において控訴人主張のような延期または続行の申立に印紙を貼用して手数料を納入したのは当然のことであり、その手数料の徴収は法律上の原因を欠くものでないことは明白である。

そうすると、控訴人の本訴請求は、その理由がないからこれを棄却すべきであり、本件控訴は理由がない。これと同趣旨の原判決は結局相当であるから民事訴訟法第三八四条第二項により本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。(浅沼武 間中彦次 柏原允)

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